2024/06/27 20:34

最近、車を運転する時間が増えて、オーディオブックを聴くようになった。


「働いているとなぜ本が読めなくなるのか」(三宅香帆・集英社)が気になっていたのだが、audiobook.jpという配信サービスで公開が決まっていて、しかも無料お試し期間が始まっていた。

これはちょうどいいと思い、インストールして車で聴き始めた。これはいい。

ABCを始めてからというもの、いろいろと忙しくて全然本が読めていない(もう2年以上になるのに…)。その上、電車の移動時間で本を読むのはなかなか集中できない。人が多すぎる。本を読むより人を観察した方が面白い。

元々ポッドキャストを聴くのは好きだし、耳だけ空いていれば問題ない。
車の周りに注意を向けなければならないが、そもそも紙の本を読んでいた時にどれだけ集中していたかが怪しい。
1行読めばいろんなことが頭の中に思い浮かんできて、その後の数行は目が紙の上を滑っているだけ、というのは日常茶飯事である。
何度読み返したことか。

そういうわけで、本屋であるにもかかわらずオーディオブック生活が始まった。

---

2冊目は「目的への抵抗」(國分功一郎・新潮社)。

この本は國分先生が行った二つの講演に基づいている。
一つは「高校生大学生のための金曜特別講座」、もう一つは國分先生が東大で行った個人的な講演である。

驚くべきことに、なんと自分が高校生の時、前者の講座をリアタイしていたことに気づいた!

2020年、ちょうどコロナが大流行していた頃。大学の先生の授業を受けてみたくて、東大が高校生大学生向けにオンラインで配信していた金曜特別講座というものを片っ端から受講していた。

そのころの自分はろくに本も読んでいなかったから、講座で(そしてもちろん本書でも)取り上げられたジョルジョ・アガンベンという哲学者はおろか、國分先生も存じ上げていなかった。その後「暇と退屈の倫理学」を読んで國分先生の凄さを思い知ることになる。

しかしながら、日本の現代思想の大家の講演を、全く知らない状況でフラットに聞くというのもなかなかできない経験である。この年になってくると大体色眼鏡がかかっている。

そしてこれをオーディオブックで聴けたのもまたいい経験である。この本は講演の文字起こしを編集したものだから、当時自分が聞いていた内容そのものだった(まあ、ほとんど覚えていなかったんだけれど)。それを再び耳を通して聞けるというのはなかなかサプライズだった。

---

タイトルを「オーディオブックと出版」としたのは、出版業界そのものについても考えることがあったからだ。

仲俣暁生さんという大学でも教鞭を振るう文筆家の方が、Xで自身の「軽出版者宣言」に関する内容を投稿していた。

仲俣さんはご自身でも「橋本治「再読」ノート」という本(ZINE?)を”軽出版”されていて、その可能性を論じている。

要は「大きな規模の出版に頼らなくても、自分で作り、適切なサイズと値付けをし、在庫を持ちすぎない軽出版によって持続可能になる」ということである。

「これは自分の見立てとも近い」、と一目見て思った。

完全に中田の持論だが、いま現在、一冊いっさつ独自の装丁を授かっている単行本の存在は高級になっていく。古典や話題書以外はオンデマンド印刷や電子書籍になる。つまり高単価な紙の本と、大きな需要の見立てがないオンデマンド・電子書籍の間には大きな差が生まれる。これは今の音楽業界の状態を考えてのことだ。いま、音楽業界ではレコードやカセットテープのリバイバルが起こっている(それ自体は何度も起こっているのだ)が、サブスクやYouTubeの普及は不可逆的なほどに存在感を増している。物理的なメディアをもつ作品は少数であり、ほとんどはインターネットの海を漂っている。音と文字には違いはあれど、本質的には情報である。インターネット的な出版を考えれば、当然オーディオブックもその中の一つに食い込んでくるはずだ。

「読めなければ聴けばいいじゃない」

ということで本屋にあるまじき発言のようですが、読む時間がなければ聴きましょう。
それは出版エコシステムそのものに寄与するはず。

(軽出版について気になった方はぜひ仲俣さんの書き物を読んでみてください。今なら「再読ノート」が仲俣さん直販Boothで割引中です。そして自分でも本やZINEを作ってみましょう。)

健太郎